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【後編:『停滞』・『呪縛』の代償――それは……】

 数分後……
 愁夜は緑茶の入った湯呑みと、お茶請けを手に戻ってきた。

「和食偏重だが……お気に召すかな?」

 愁夜はにっこり微笑むと、湯飲みとお茶請けを置いて、縁側に腰掛けた。
 ……その笑みは、先ほど見せた『陰り』を、全く感じさせないものであった。

「はぁ……(∬∀・)ゞ」

 愁夜の予想外の行動に、アッシュは少なからず戸惑う。

「うん……まぁ、気にしないでくれ。
 父さんはいつも、こんな感じなんだ(・・;」

 ご丁寧(?)に、咲夜は実父の性格を解説する。

 ……咲夜はアッシュを警戒してか、彼から遠く離れた場所に腰掛けていた。
 まぁ、あんな目に遭ったのだから、無理もないだろうが……。


――つまり……八尺瓊の力は二つ存在する事で、均衡が保たれているのである。


「じゃあ……八尺瓊の力を手にするには、
 八神から手に入れるしか無いってことになるんだね」
「ああ、そうなるな。咲夜はこの事、どう思う?」
「力がどうこう……ってのは、興味無いよ。
 僕が単なる『八神の影』とか、『八尺瓊の人間』とかじゃなく、
 『一人の人間』として扱ってもらえれば……」

 咲夜はそう言いかけて、はたと気付く。

「……って、父さん、何で僕まで話に加わらせるかな?」
「そりゃあ、大勢で話した方が楽しいからだよ(^-^)」

 娘の質問に、愁夜は笑顔でそう答えた。
 彼の答えを聞いた咲夜は脱力して、がっくりとうなだれる。

「いや、そういう問題じゃ……(汗)」

 ――まぁ、いいか。それでこそ、父さんだから。


「……あれ? それじゃ、ボクが彼女の力に拒まれた理由は?」
「それはだな……」


――八尺瓊の『守る為の力』は武具に例えると、
『剣』である以前に……八尺瓊自身を守る『盾』でもある。



「それ故、君は咲夜の力に拒まれたという事さ」
「……なるほどね」




 ――彼等は暫しの間、談笑を交わした。

 八尺瓊の話が尽きると、それからは他愛も無い話が続いた。
 最初は『敵同士』という立場であったも関わらずに……である。

 それは……相手を単なる『敵・味方』で判断しない、
 愁夜の寛大な心が生んだ出来事と言えよう。

 しかし彼は、その心と引き換えに、掛け替えのないものを失ったのだった……。


――それから、数時間後。


「もっと、ゆっくりしていけば良いものを……」
「そうなったらそうなったで、僕的にはちょっと複雑なんだけど……」

 縁側には、愁夜と咲夜の姿だけがあった。
 アッシュは数分前に「他の用事がある」との事で、この場を後にしたのだった。

「まぁ、立ち去った人間の事をどうこう言っても始まらないが――」

 愁夜は苦笑交じりに、空を見上げる。
 同時に雲間から、美しい満月が顔を覗かせた。

「今宵の月も、綺麗で何より……」
「私的には、三日月じゃなかったのが何よりだ」
「……それは同感」


 ――私は今の『心』……相手を単なる『敵・味方』で判断しない心と引き換えに、掛け替えのないものを失った。


 ……所変わって、ここは仏壇。

 中央に、一枚の写真立てが立ててある。
 写真立てには、20代後半の女性の白黒写真が収められていた。

「母さん……僕達は必ず、母さんを苦しめた忌まわしき『理』を、
 打ち砕いてみせる……」


 写真の女性の名は『八尺瓊 初音(やさかに はつね)』。
 愁夜の妻にして、咲夜の母。

 一般の人間でありながら、『八尺瓊の理』に厳格な義父(愁夜にとっては「父親」)の
 理不尽な体罰から娘を庇い続け、義父・夫に間違いを諭し続けるという、
 とにかく曲がった事が大嫌いな女性であった。

 しかし10年前のある日……体罰による強度の頭部打撲が原因で、この世を去った。
 しかも夫と、庇っていた娘の目の前で――である。
 言うなれば彼女は、一般人であるが故に『八尺瓊の理』に殺されたようなものである。

 ……皮肉にも愁夜は、『八尺瓊の理』が『八尺瓊の人間を縛るだけのもの』である事を、
 この時初めて知ったのだった。


「すまない、初音……。
 私がもう少し早く、『理』が間違いである事に気付いていれば……」

 愁夜はそう言いかけて――ふと、疑問に思った。


 ――いや……それは違う、筈だ……。


「違うよ。父さんは悪くない」

 ……愁夜の心の声を知ってか知らずか、咲夜はそう呟いた。

「本当に悪いのは八尺瓊を縛り付けて、八尺瓊としての人権を
 剥奪した奴等――三神器なんだから」
「……」

「母さんはあの時……身を以って『それ』が間違いだと、父さんに教えてくれたんだよ。
 きっと……」
「……そう、思うか?」

「うん。母さん、最期にこう言ってた筈だよ……。
 『失う事は、ただ「失う」だけの事柄じゃない。失った所から、得るものもあるんだ』って――」
「……!」

 咲夜の言葉に、愁夜は、はっとする。


 ――ああ……そうだった、な。今更ながら、思い出した……。


 そして安堵の溜め息を漏らした刹那、愁夜の目元が潤む。

「えっ……? きゅ、急にどうしたの、父さん?」

 咲夜は父親の意外な行動に対し、どうしていいか分からず、オロオロしている。

「いや……どうしてしまったのだろうな……?
 涙は『あの時』に、全て流し尽くしたと思っていたが……」

 目をこすって涙を拭うと、愁夜は今一度、亡き妻の写真を見据えた。


 ――掛け替えのないものを失ったからこそ、私はその『心』を得たんだ……。



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・後書き

 最後は感動系で締めくくりました。
 なるべく分かりやすく伝わるように、気を使って書きましたが、
 上手く伝わったかどうか、かなり不安です……(^^;

 余談ですが……『警戒する相手・敵対する相手を、上手く会話に引き込む事』は、
 愁夜の得意技だったりします(笑)。

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