【中編:戦う為の力、守る為の力】
「でも、いいの? 当主自ら、力の秘密を明かしてもさ?」
「……構わんさ」
愁夜に促される形で縁側に腰掛けたアッシュは、疑問の言葉を投げかける。
愁夜はその問いに驚く事も無く、平然と答えを返し……八尺瓊の力の詳細を語り始めた。
――八尺瓊には本来、二つの力があった。
――『戦う為の力』と、『守る為の力』。
アッシュが愁夜の言葉を疑問に思ったのも、無理はないだろう。
何故なら――八尺瓊家当主の口から『八尺瓊の力の秘密』が語られるなど、
普通ならば、到底ありえない話である。
更に言えば……「アッシュ・クリムゾン」という存在は、
愁夜達――ひいては、去年(=2003年度)のKOFに参加した
三神器達にとっては、『力を狙う、襲撃者』に過ぎない。
アンタは一体、何を考えている――?
「私は――『八神の影』に甘んじるつもりなど、毛頭無い!」
「……!?」
……そんなアッシュの考えを見透かしたかのように、
愁夜は突如、『力』の話を中断して、強く言い放った。
彼の言葉に今まで感じなかった怒気を感じて、アッシュは内心驚く。
「……っと、失礼。話を元に戻そうか」
つい感傷的になってしまった事に気付くと、愁夜はバツが悪そうに、
苦笑交じりで頬を掻いた。
――しかし、八神と化した元・八尺瓊は『戦う為の力』を求めるあまり、
『守る為の力』を捨てた。
「君に話した事が切欠となって、私達の状況が変われば……
私達は『停滞』・『呪縛』から逃れる事が出来る」
「停滞……呪縛……」
「そう、八尺瓊が『八神の代用品』としてのみの存在と化す。それが『停滞』。
そして……それに伴う、自由の喪失。それが『呪縛』。
私の家は何百年も、それに縛られ続けてきた――」
――その為、元・八尺瓊の力の天秤は均衡を失い、オロチ達に付け入る隙を与えてしまった。
――八神が時に、オロチの力に耐え切れずに暴走するのも、
『守る為の力』を失ったのが原因なのだ……。
「最初は『それ』が……『八尺瓊の理』に殉じる事が、当たり前だと思っていた。
そうやって生きる事が、当然だと思っていた。だが――」
――その時。
《ばたーんっ!》
――突然、何かが倒れる音が響いた。
二人はとっさに、音がした方を向く。そこには……
「……咲夜?」
そこには、アッシュに力を奪われかけた、あの少女がいたのである。
……が、今は廊下に突っ伏している状態で、いささか緊張感に欠ける。
この様子を見る限り……さっきの音は、どうやら彼女が転んだ音らしい。
「大丈夫か? 戦った直後に、無理に起き上がるから……」
「いや、そうじゃなくて……」
咲夜は愁夜に助け起こされる形で、よろよろと立ち上がると、
実父達の様子を見て感じた疑問をぶつけた。
(念の為……アッシュには聞こえないように、小声で)
「何で、侵入者相手に談笑してるかな……?」
「いや、少々退屈だったのでな」
「はあぁ〜……」
実父のマイペースな回答(同じく小声)に、咲夜は思わず溜め息をつく……が、
次の瞬間、愁夜は笑顔で――驚く事を口にした。
「そんな訳で……退屈ついでに、彼に茶でも入れようかと」
「はぁ?」
愁夜は咲夜の返事を待たず、台所のある方向へ、すたすたと歩き出した。
そして……アッシュの側で立ち止まると、彼を見下ろす形で、
先程の話の続きをした。
「だが――私は、ある時、『それ』が間違いである事に気付いた」
「間違い、ね……」
愁夜を見上げる形で、言葉を返すアッシュ。
「だが……私は、気付くのが、遅すぎた――」
そう語る愁夜の顔には……普段は見せる事の無い、『陰り』が見えた――。
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・後書き
基本はシリアスですが……今回は咲夜の転倒、愁夜のマイペースと、
かなりギャグマンガ的な展開になってしまいました。
(個人的に、こういう展開は好きだったりしますが(^^;)
話を書いていて思ったのは、愁夜が主役っぽい事ですね。
……何か、娘よりも目立ってるし(苦笑)。
なお……八尺瓊家の台所は、
『アッシュが腰掛けていた側に近い方に、位置している』という設定です。
次回で最終話です。
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