【前編:『紅』と『紅蓮』】
――今から約660年前……八尺瓊家はオロチ一族と契約を交わし、草薙家と敵対。
――そして、名を『八神』と改めた。
現在時刻は午後7時。天候は曇り。雲が空の大部分を覆っている。
「フフフ……まだ、残ってたんだね」
「……何の用だ?」
古風な造りの家……その縁側の廊下では、二人の人間が対峙していた。
一人はプラチナブロンドの少年――そしてもう一人は袈裟姿の、黒髪長髪の少女。
少年の名は『アッシュ・クリムゾン』、少女の名は『八尺瓊 咲夜(やさかに さくや)』。
「キミの力を貰いに来たんだ。
『力』は、多いに越した事はないからね」
「何を……!」
――表向きは「八尺瓊一族の全てが、オロチと契約を交わしたとされている」が……
――実際は、オロチとの契約を望まない者もいたのである。
「……結構、いいセン行ってたとは思うけど」
アッシュはそう言いつつ、仰向けに倒れている咲夜を見下ろす。
……この様子からも、咲夜が「敗北した」という事実は窺い知れるであろう。
「さて、と……」
その場に屈み込むと、咲夜の胸元――心臓辺りに向けて、手を伸ばした。
驚くべき事に彼の手は、咲夜の服や肉体に遮られることなく、体内に入り込んでいったのである。
「っぐ……!」
体内を掻き回される異様な感覚に、咲夜の顔に苦悶の色が浮かぶ。
――彼等の大部分は契約を望む者達に殺されたが……
ほんの一握りの八尺瓊一族は、何とか逃げ延びた。
「……ッ!?」
突如片手全体に強烈な熱さと痛みを感じて、アッシュは思わず、
差し込んだ手を引っ込める。
「拒まれた……? 前には、こんな事――」
アッシュが言葉を言い終える前に、前方から紅蓮の炎の刃が飛んで来た。
それは彼の顔を掠め……ブーメランのように、戻っていった。
そして――炎刃が戻っていった先には、一人の男の姿があった。
咲夜と同様の、袈裟姿。
「……これ以上、家で暴れるのは止めてもらおうかな。
このような場所では、修理屋も訪れにくいんでね」
男は突然の来客にも驚く事無く……穏やかな笑みを浮かべつつ、
落ち着いた口調で諭すように言った。
炎刃は男の手元で、つかず離れずの位置を保って、浮いている。
――だが、彼等は「八神の影」……
悪い言い方をすると「八神が暴走した時の為の代用品」として……
「……ああ、そうか。アンタも……だね?」
男の能力を見て正体が予測できたものの、アッシュはそれを承知した上で、
敢えて問い返してみる。
「そう……私は『八尺瓊 愁夜(やさかに しゅうや)』。
未熟者ながら、八尺瓊家の当主を勤めさせてもらってるよ」
男――愁夜は炎刃を握り潰すと、
気を失っている一人娘……咲夜を抱き上げて、寝室まで運んでいった。
――「三神器以外の人間や、俗世に触れる事が一切許されない」という、
自由の無い生活を送り続けてきたのである……。
アッシュはこの機を逃さず、その場から立ち去ろうとしたが……
「おや? もう帰るのかい?」
「……!?」
アッシュは背後から聞こえた声に反応し――自分の背後を振り返った。
……そこには、咲夜の寝室へ向かった筈の愁夜の姿があった。
袈裟という動きにくい服装であるにも関わらず、凄まじい瞬発力である。
「いつの間に……」
「ふふっ……『力』は渡せないが、代わりに『ある話』をしてやる事は出来る」
「……『ある話』?」
アッシュが聞き返したのと同時に、愁夜は縁側に腰掛ける。
「そう……八尺瓊の『力』の種明かしだ。
君にとっても、興味深い事だとは思う……っと、その前に……」
愁夜は、未だその場に立ったままのアッシュを見上げつつ、言葉を継いだ。
「……この話は長いから、座って聞いた方がいいよ」
――穏やかな笑みを、絶やす事無く。
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・後書き
真っ先に言う言葉は「申し訳ありませんでした」、この一言につきますね(^^;
2003の時点でアッシュの正体が不明であるにも関わらず、
あまりにも無謀な挑戦をしてしまったと、我ながら思います……(苦笑)。
「前には、こんな事……」のセリフでピンと来た人もいるでしょうが、
このSSの時間軸は「KOF2003・三神器チームED後の話」となっています。
と、いう訳で……まだまだ続きます(^-^;
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